ワンオペ育児は×!育児のコツや産前産後ケアとは【産婦人科医インタビュー】

 専門家監修
公開日:2019/10/04
更新日:2019/10/05
ワンオペ育児は×!育児のコツや産前産後ケアとは【産婦人科医インタビュー】
監修
松峯寿美先生
東峯婦人クリニック名誉院長

ドクターズインタビュー第2回は、東京都江東区で「東峯婦人クリニック」と、産前産後ケアセンター「東峯サライ」を開業されている松峯寿美先生。「周囲のサポートに甘えるのが、産後の育児を楽しむコツ」と語る松峯先生に、〝産前産後ケア″の意義について伺いました。

自分の産後体験が原点となって、産前産後ケアの必要性を考えるようになりました

実際に出産して、「自分は現実を何も知らなかった」と愕然…

私が勤務先の大学病院で出産したのは、結婚3年目の28歳のとき。不妊治療をしたこともあり、当時は妊娠・出産をゴールのように思っていました。

産婦人科医ですから、妊娠・出産のメカニズムについては理解していましたが、自分のお産が予定日を2週間も超過するとは想定外。マンションの10階まで階段を上り下りしても、おなかのわが子はビクともせず、結局、陣痛促進剤を使って誘発分娩しました。「お産というのは、そのときにならなければわからないもの」と身を持って知ったわけです。

お産の誘発をスタートして5時間後には強力な痛みが来るようになったけれど、内診を受けると子宮口5㎝で、まだまだの段階。子宮口8㎝のときには「もう、正気ではいられな~い!」と思うほどの痛みにおそわれ、子宮口全開大になったときには我慢できずに叫び声をあげてしまいました。無事に生まれた瞬間は「やっと痛みから解放された!」と、心底ホッとしました。

ところが、翌朝から初めての育児が始まり、「自分は産後のことを何も知らなかった」と愕然としたのです。

赤ちゃんのお世話の仕方がわからないまま退院日に

出産当日の深夜、あまりの胸苦しさに目覚めたら、おっぱいがパンパンに盛り上がっていて、びっくり。翌朝、助産師が入院室にわが子を連れてきてくれましたが、一体どうやって授乳すればいいのかわかりません……。

授乳の仕方を助産師に聞くと、「先生は産婦人科医だから知っているでしょ。母親学級で講師をしていたじゃないですか」と。たしかに私は、妊娠中の体の変化や、出産のメカニズムについて、妊婦さんたちへのレクチャーを担当していました。でも、赤ちゃんのお世話については産科の教科書に書かれていなかったので、知識がなかったのです。産婦人科医だって、初めての妊娠・出産ではママとして初心者なのです

当時は、完全母子同室ではなく、授乳のときだけ赤ちゃんを連れてきてもらうしくみ。わが子がずっと寝ているものだから、おっぱいをあげないうちに新生児室に戻る時間がきてしまって。「おっぱいが張って、つらい」と助産師に訴えたら、「搾乳してください」と言われました。でも、お手本を見せてもらっていないから、搾乳の仕方がわからないんですよ。

医局の職員は個室に入院し、ママたちと一緒に授乳指導を受けることができない規則のため、授乳の仕方がよくわからないまま退院日を迎えてしまいました。 

「産後の育児は教えてもらわなければわからない」と痛感

「赤ちゃんのお世話の仕方がわからない。どうしよう」と不安でしたが、退院直後から産休明けまでの約6週間、実家に里帰りしたおかげで、授乳、沐浴、着替えなど、ひと通りの育児を母から教わることができました。ひと足先に妹が出産していたので、母は新生児のお世話が手なれていたのです。

そして、産休明けに自宅マンションに戻り、子どもの預け先の保育園も決まり、いよいよ職場復帰する日がやって来ました。ところが、別の病院への異動を申し渡されてしまったのです。

新しい職場は子どもの預け先の保育園から離れていて、どう頑張っても始業時間に間に合いません。一時的に24時間体制の保育園に子どもを預けたのですが、生後数ケ月のわが子を長時間預けるのは胸が痛みました。かといって、仕事をやめるわけにはいかないし、最終的にベビーシッターを探すことにしました。

ベビーシッターが毎日自宅に通ってきてくれるようになってからは大助かり。育児だけでなく、夕食の支度もサポートしてもらえたからです。「あぐらをかいて赤ちゃんを抱っこすると楽よ」などと、教科書には書かれていない知恵を教えてもらって、目からうろこが落ちる思いでした

職場復帰と同時進行で、孤軍奮闘しているときはつらかったけれど、育児や家事のサポートを受けることによって心に余裕が生まれ、わが子に対してますます愛情がわいてきました。そうした実体験が産前産後ケアの必要性を考える原点となっています。

あのときの私のように、産後の育児に困って途方にくれているママたちをサポートしたい」と、長年温め続けていた構想を実現し、2014年に産前産後ケアセンターを設立したのです。

今、なぜ産前産後ケアが必要か。多くのママたちに伝えたいことがあります

ママたちの疑問や不安を解決する相談先が必要です

妊娠・出産には期限があるから、まだ楽なのですが、産後は同時にエンドレスな育児の始まり。お産入院中に授乳やおむつ替え、沐浴の仕方などをひと通り教わりますが、退院して自宅に戻ってから、「こんなときは、どうしたらいいの?」と途方に暮れてしまうことがあります。

中でも多いのが授乳に関する悩みです。「おっぱいをうまくくわえさせることができない」「おっぱいの張りがつらい」「おっぱいがつまりやすい」など、母乳育児で困ったときには母乳外来に相談するのがいちばんです。

多くのママたちがそのときどきの小さな悩みや不安を抱えています。産後の育児で困ったこと、わからないことがあると、ネットで検索するケースが少なくありませんが、ネット上には不確かな情報があふれています。

不確かな情報に振り回されて悶々とするよりも、妊娠、出産、産後の育児のプロがそろっている産前産後ケアセンターに相談してほしいと思うのです。ちょっとしたコツを教わるだけで、赤ちゃんのお世話がぐんと楽になります

産後の体や育児について、妊娠中から知っておくほうが安心

出産は本能のままに産むことができるけれど、産後の育児は日々の学習の積み重ね。これは、私自身が自分の経験から実感したことです。とくに産後の体の変化や育児については、妊娠中からある程度は知っておくほうが安心です。

そこで、私が運営する産前産後ケアセンター「東峯サライ」では、産前産後の各種クラスを毎月開催しています。産前ケアとして、母親学級や両親学級だけでなく、妊娠中から母と子の絆づくりを行って産後の育児をスムーズにする「胎教クラス」、安産に備えた「マタニティヨガクラス」、赤ちゃんのお世話のシミュレーションをする「育児準備クラス」などがあります。

また、産後ケアとしては、赤ちゃん連れで参加できる「産後ヨガクラス」や「離乳食クラス」、家族の健康を考えた「薬膳料理教室」などがあり、ママたちがおしゃべりしたり、情報交換できる子育て広場のような役割も果たしています。

医療的なバックグラウンドがある、助産院のような場所を目指しました

産後のママと赤ちゃんをケアしてくれる場所としては、昔からある助産院が知られています。ファミリー出産や、分娩台にこだわらずにリラックスしてお産するアクティブバースなどは、もともと助産院で行われていました。また、産前の体づくりや食事指導、産後のおっぱいのケアなどにも熱心で、アットホームな雰囲気の中でママと赤ちゃんのケアを行っているのが魅力です。

ただ、助産院では、万一の場合に医療の介入ができません。各助産院には嘱託医療機関と連携するしくみがありますが、医師が常駐していないため、何らかのトラブルが起きた場合にその場で対応できず、嘱託医療機関に転院することになるのです。

お産は病気ではありませんが、突発的なトラブルが起こる可能性もあるため、やはり医療的なバックグラウンドが必要と考えました。

当クリニックに併設された産前産後ケアセンター「東峯サライ」では、助産師、産婦人科医とともに、小児科医、臨床心理士、理学療法士が常駐するので、産後の赤ちゃんの乳児健診や、ママの心理カウンセリング、骨盤まわりを整える理学療法のケアも可能です。妊娠・出産・産後の母体のケアや育児まで、あらゆる面からサポートする体制を整えています。

1人で頑張りすぎないことが育児を楽しむコツです

ママがリラックスすると、育児が軌道に乗りやすい

私たちが産後ケアでもっとも大切にしているのが〝ママの体と心の回復″と〝休息″です。産後のママたちは赤ちゃんにたくさんの愛情を注いで育児に取り組み、交感神経が優位な状態です。常に緊張状態にあるというわけです。なかには、頑張りすぎて限界を超えてしまう人がいるのです。張りつめた糸が突然プツッと切れてしまう前に、早めに手を打つことが肝心

睡眠不足がたまっているときには、デイケア(日帰り型産後ケア)、またはショートステイ(宿泊型産後ケア)を利用するといいでしょう。授乳時間以外は、赤ちゃんを預かってもらえて、ゆっくりと体を休めることができます。

ママが疲れてイライラすると、赤ちゃんはママのピリピリ感をキャッチして不安になり、ぐずってしまいがち。赤ちゃんは「おっぱいがほしい」「眠い」「おむつがぬれて気持ちが悪い」という理由で泣くけれど、ママがリラックスしているときは、そんなに長時間泣くことがないのです。不思議とママに同調するので、ママがリラックスすることによって、育児が軌道に乗りやすくなるということを覚えておいてほしいです。

「人に頼るのは悪いことではない」とママたちに知ってほしい

最近では、実家の親世代が祖父母の介護で忙しかったり、またはフルタイムで働いていたり、高齢になっていたりと、さまざまな事情で実家に里帰りせずに頑張っているママたちが増えています。「実家が遠方で往復が大変だから」「夫婦で力を合わせて乗り切りたいから」と、里帰りしない選択をする人もいるようです。

なかには「人に頼るのが苦手」という人もいますが、ワンオペ育児に孤軍奮闘して倒れてしまったら、元も子もありません。頼れそうな人をリストアップしたり、自治体が支援している産後ケアサービスや、地域の産前産後ケアセンターで受けられるケアについて調べるなど、妊娠中から備えてほしいと思います。

育児は1人ではできません。「家事も育児も全部自分で」と抱え込まないで、「周囲に頼ることを学ぶ」のも、ママになったら必要なことではないでしょうか。とくに、頑張り屋さんのママは限界を超えないように注意が必要です。ママが1人で頑張りすぎて〝孤独な育児″に陥ると、ある日突然プツッと緊張の糸が切れてしまうことがあるからです。

産後うつを予防するためにも、周囲に頼って体力と気力を使い果たすことがないようにしましょう。

ママたちが育児を楽しくスタートできるように見守っていきたい

初めての育児はわからないことばかりなので、最初からうまくできないのは当然のこと。育児は学習。毎日が新しい発見の連続で、その経験がスキルとして積まれていきます。それこそが育児の喜びとなるのです。

もしも、赤ちゃんのお世話の仕方がよくわからずに困っていたり、不安なことがあるときには、子育ての先輩に助けを求めたり、産前産後ケアセンターの助産師からじかに教わるのがいちばんです。コツを覚えて、「そうそう。それでいいのよ」とほめてもらったりすると、「これでいいんだ」と自己肯定感が持てるようになり、ママ自身のモチベーションがアップしていきます。

産後のママたちが心と体を休め、育児を楽しくスタートできるようにバックアップするのが産前産後ケアセンターの役割。「ここに来るとホッとできる」と、ママたちが気軽に通える〝ゆりかご″のような場所でありたいと思っています。そして、「こんなに楽しい育児なら、もう1人産みたい!」と、2人目、3人目を考えるママたちが増えてくれればと願っているところです。

取材協力/東峯婦人クリニック東峯サライ
取材・文/Milly編集部

発売中 :やさしく知る産前・産後ケア※情報は掲載時のものです

監修
松峯寿美先生
東峯婦人クリニック名誉院長
東京女子医科大学卒業後、同大学病院に10年間勤務し、「不妊外来」を創設。1980年に東峯婦人クリニックを開業し、女性専門外来の先駆けとなる。2014年より産前産後ケアセンター「東峯サライ」をクリニックに併設。妊娠・出産・産前産後ケア、更年期以降まで、女性の一生をトータルで支える医療を実践。近著に「やさしく知る産前・産後ケア 産婦人科医が教える、ママと赤ちゃん こころとからだ」(高橋書店)など。ママたちの不安や疑問にていねいに応えてくれる先生です。
東峯婦人クリニック公式HP東峯サライ公式HP

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