愛にあふれた自然でやさしいお産とは?現代のマザーテレサが教えてくれたこと【産後ドゥーラ小松紀子の“子育てのヒント”Vol.6】

コラム
公開日:2019/06/21
愛にあふれた自然でやさしいお産とは?現代のマザーテレサが教えてくれたこと【産後ドゥーラ小松紀子の“子育てのヒント”Vol.6】

現代のマザー・テレサとして世界で注目されている助産師、ロビン・リムさん。彼女がバリ・ウブドに設立したブミセハット国際助産院で、初めての日本人バースキーパー向けの研修プログラムがスタートするということで参加してきました。どんな状況下でも、自然に身をまかせ、安心して、愛し愛されていることを実感できるやさしいお産とはどんなものなのか。妊産婦さんや家族を丸ごと支える方たちの、あたたかく強力なサポート体制について学びました。

自分が大切にされていると感じられる“やさしいお産”を

研修で訪れた場所は、バリ・ウブドにあるブミセハット国際助産院。助産師のロビン・リムさんアース・カンパニーと一緒に設立したクリニックの1つで、入院費や運営費はすべて世界中からの寄付でまかなわれています。

ロビンさんは、被災地や貧困の中にいる妊産婦のお産も年中無休、無償で受け入れ、アジア9ヵ所の被災地支援も行い、多数の命をその手でとりあげてきました。アジアでは、1970年代と比較すると2010年代は約5倍の災害が起きているとのこと。研修初日の「お産と気候変動」の講義では、災害時に家がなくなった妊産婦などを含め、テントの中で70人もの出産を介助した経験談を話してくれました。

どんな過酷な状況下でも、出産する女性の尊厳が守られ、大事にされなければならない。その基盤となるのが“やさしいお産(gentle birth)”であるそうです。その条件は3つあり、安全性、プライバシー、寄り添いが保たれていること。母親がたいせつにされていると感じることで、愛情ホルモンのオキシトシンが出て、赤ちゃんにも自然とやさしくできるようになるのだそう。

急な災害時における持ち物や心の準備

医療器具が足らず衛生管理がままならない厳しい状況下でも“やさしいお産”を可能にする確かなスキル、あらゆる緊急事態に対処できる知識と経験を併せ持つロビンさんのすばらしい働き方。そしてそれらのスキルや知識・経験以上に大事なのは、ずっとそばにいて助けることだとロビンさんはいいます。「道具や環境が足りなくても、存在だけでやれることがあるはず。私たちの心と手にかかっています」と語るロビンさんの静かで強いまなざしが忘れられません。

「避難バッグは家族用と仕事用の2つを常備していますか?」の問いには思わずドッキリ。災害時に自分や家族の避難のことしか考えていなかった自分を恥ずかしく思うと同時に、慌ててみんなで仕事に必要な道具の確認をしました。被災地での必須アイテムは、自力で電源と水を確保するための、太陽光パネルと浄水フィルターだそう。さっそく帰国後すぐに購入し、避難バッグに準備しました。

家族の安否を確認したら、次に避難所では、医者や看護師や助産師、ドゥーラなど自分から声を上げ、困っている人を助けるチームに参加してくださいとのこと。おそらくスキルがあろうとなかろうと、どんな職業であろうと、元気なら、家がなくてもその場で何かできることはある、そのひとりひとりの小さな勇気や助け合いの気持ちがチームとして大きな流れになり希望になる、そんな具体的なイメージがバリの森の中でより豊かに広がります。

ドゥーラサポート中、赤ちゃんを1人でママ宅でお預かりしているときに大地震が起きたら……。避難先や連絡先や持ち物は? そんなシミュレーションも重要です。ママや赤ちゃん、家族をストレスや不安から守るということもドゥーラの仕事。災害は万が一のことではなく、普段から心の準備をし、目をそむけてはいけないことを再認識させる講義内容でした。

赤ちゃんと一体 胎盤のたいせつさ

4日間の研修の中で、いちばん興味深かったのが胎盤(プラセンタ)の神秘についての講義。現代は出産後すぐにへその緒を切って赤ちゃんを抱かせてくれるところがほとんどですが、ブミセハット国際助産院では、赤ちゃんと胎盤がつながった状態で、赤ちゃんはママの胸元、skin to skin の状態でしばらくの間過ごさせてくれるのだそう。

胎盤は神聖な存在として、摘みたての生花と一緒にボウルに入れられ、ママの体内から出たあとも赤ちゃんの体に血を送ってくれるといいます。

バリでは胎盤は、魂があり、赤ちゃんのそばにあるもの、自分を守ってくれる天使、守護神などの意味もあるほど、昔からかけがえのない存在。自分の臍帯血で薬のカプセルを作って生涯の免疫力を高めたり(冷凍庫で一生もつのだそう)、長く切ったへその緒でドリームキャッチャーを作って枕元に飾ったり。下の写真は、アース・カンパニー代表、濱川明日香さんのお子さんのへその緒でつくったドリームキャッチャー。世界に1つでありながら、祖先ともどこかつながりを感じられる家族の宝物です。

胎盤と赤ちゃんをしばらくつながったままにするのは、新生児貧血の防止になるメリットもあり、すぐにへその緒を切ると150~210ml、3分の1の血液を失うというエビデンスもあるそうす。※Ola Andersson氏らが400人の新生児を対象に行なった試験では、出生時にへその緒を3分以上遅らせてカットすることで、生後4ヶ月における鉄の状態および鉄欠乏の発生が改善されたことが報告されています(BMJ誌2011年)。しかし、日本で産後すぐにへその緒を切るのは、新生児の黄疸を予防するため。どちらにもメリット・デメリットがあります。

下の写真はペットボトルで、へその緒をすぐに切った場合としばらく切らなかった場合の血液量の差を説明しているところ。その差は、赤ちゃんのヘモグロビンの数値にも表れています。
また、胎盤の位置より上に赤ちゃんを抱くので、胎盤をしばらくつながったままにしておいても多血にはなりにくいのだそう。

ロビンさんは、ハイリスクなお産や被災地のテント内でも、急いでへその緒を切ることなく、胎盤と赤ちゃんがつながったまま、家族で過ごす時間をたいせつにされています。また被災地でハサミが滅菌できないときや衛生面が行き届かないとき、バリで古くからある方法=火でへその緒を焼き切ることもあるとのエピソードには驚きました。

バリでは1960年代頃から、効率性の理由などによりへその緒を早く切るようになりました。現在は帝王切開率70~90%の病院もあるといわれており(もちろんママと赤ちゃんの安全を守るために必要なことですが)、もしも好きな姿勢で産み方を選択したり、産後しばらく胎盤や赤ちゃんと過ごしたりといった“自然でやさしいお産”ができたら、女性にとっては一生の宝物になるだろうな、と思いました。

オキシトシン分泌を高めて100%母乳育児を実現

ブミセハットでは、両親学級を開催したり、パパ向けに作った本を無料配布したり、漢方、鍼灸、ヨガなど、西洋と東洋のいいとこどりで、快適なマタニティライフややさしいお産ができるようにさまざまな配慮や工夫をしています。

生後もミルクを使わず、ママのオキシトシン分泌を促し、完全母乳育児に徹しているのもさすが。生まれてすぐに母乳育児がうまく軌道に乗らないママには、赤ちゃんの生後1日ごとの胃のサイズを説明して、焦らず徐々に飲めるようにセルフマッサージや食事、赤ちゃんの飲ませ方や抱き方などの指導をしたり、skin to skinで授乳したり、を繰り返し、すぐ簡単に哺乳瓶を与えないのがコツとのこと。バリでも母乳に関してはお義母さまの言葉に傷つくママも多く、それは世界共通かもしれません。「オキシトシンはシャイなので(笑)、なかなかすぐには出てこないけれど、ママをたいせつにしてあげること、根気よく焦らず地道に続けることで母乳量も増え、ゆっくりうまくいくようになります」

帰国日の最後の薬草の講義では、タマリンド、ジンジャー+米、ターメリック+ジンジャー、カユマニ、サンボーンなど数種類の薬草ジュースを作って、皆で試飲。妊産婦の血圧を下げたり、血流の循環をよくしたり、喉にもいいなど、薬を使わずに、バリの豊かな自然から得られる強力なエネルギーを取り入れるのは身近な素材で安心感もあり、薬効も高いように感じました。

妊産婦さんはどうしても栄養が不足しがち。今回の経験を生かし、日本のママたちにも栄養の摂り方のご相談にのったり、自然のパワーいっぱいで母乳にもやさしいドゥーラ ごはんを提供したりなど、身近に得られる自然の恵みや栄養についてもお伝えしていけたらと強く思いました。

妊産婦のトラウマもケア。どのお産も愛あるものに

男の子を産まないことや帝王切開がトラウマになることも

バリでは家ごとに寺院があり、後を継いで守る男の子が生まれると喜ばれ、女の子だとがっかりされるという風潮が今だにあるとのこと。バリの女性は自分の意思を持たず、生涯で男の子を1人も産めなかったということがトラウマになる人も多いと言われています。助産師は赤ちゃんが生まれても性別はいわず、ママが自分で確認するのをゆっくり待つのだそう。男の子でも女の子でも命は尊ばれ、やさしいお産でママの気持ちと体をたいせつに守っています。

帝王切開で生まれたことがトラウマになっているママには、赤ちゃんを足の間にもっていき、赤ちゃんが自分でおっぱいを探して上に登っていくことをしてあげるなど、ひとりひとりの背景を知り、その人の心のひっかかりをケアしているのだそう。

トラウマをかかえるような状況での出産も、大事にしてもらった=愛を与えられたと感じられることが、結果的に母親のオキシトシンを高めて、赤ちゃんをかわいがることができるということを学び、深く納得しました。「人の気持ちはgarden(お庭)です。たくさんお水をあげてください!」とロビンさん。どの人にも愛あるお産をしてほしい、の深い意味がわかり、数々の経験から語られる言葉以上の気持ちが伝わってきました。

私たち日本人のお産でも、例えばパパや家族が出産に立ち会い、ママに声をかけ、痛みに寄り添い、体をさすったりすることが増えてきました。これはとてもたいせつなこと。お産のときに家族から愛を与えられたというママの感覚は、新しい命に対する愛情に大きく関わってくるのです。

私も出産を追体験。“やさしいお産”を実感!

実は私も、トラウマとまではいかないものの、「助産院で産みたかった」という後悔の念を皆さんに話したら、助産師やドゥーラの数名が付き添って産み直しの機会を提案してくださり、家族役や助産師担当など大勢の方に囲まれて本物さながらの出産シーンを追体験させていただいたのです。赤ちゃんの人形を抱き、胎盤をそばに置いて花を浮かべた“ロータスバース”で! トラウマや後悔を脱ぎ捨てて、自分までも新しくなったように感じる、開放された穏やかな時間は、深く心に残るものとなり、たしかに子供への愛情までも深まったように感じました。オキシトシンの高まりを自分でも感じることができ、とても感謝しています。

忙しくても呼吸を感じ、心と手を使ってママをサポートする

最後に、ひとりひとり名前が呼ばれて研修プログラムの修了証を手渡されました。このときは感謝と皆との一体感で、もう涙が止まりません。ロビンさんをはじめ、マーラさん、ブミセハットジャパンやアースカンパニーの皆さん、そして参加した助産師やドゥーラの方々とも抱き合い、たくさんの言葉を交わし、日本での再会を誓いました。

座学での知識を学ぶのとは違う、五感を研ぎ澄ませて人とのつながりの中で自分の腑に落ちるような“感じる”内容が盛りだくさんだった、今回の研修。忙しいときも常に自分の呼吸を感じること、心と手をたいせつにしてママや妊産婦さんのためにたくさん使うことなどを学びました。また「大事にされることで、母親はより子供のことを愛せるようになる」ということがわかり、自分もしっかり心と手を使ってママたちを大事にサポートしていけたらと思います。

最後にロビンさん宅に招かれ、子宮を模したというご主人手作りの窯でピッツァパーティー。別れがたくていつまでも話していたいたいせつなひとときでした。

あっという間にお別れの時間に。これからも“やさしいお産”を支えるべく、日本の各地へ帰っていきました。

【番外編】これぞバリ!? という貴重な体験も

ちょっと話題は変わりますが、講義以外の時間に、バリならではの面白い体験をすることができました。きっと皆さんもバリを旅した気分が楽しめると思うので一部ご紹介しますね。

バリの正装をしてティルタウンプル寺院での沐浴

湧き水の池に胸まで浸かり、十ヵ所以上の噴水を浴びてお清め。冷たい水で身も心も浄化されたところで、寺院でお供えをしてお経を聞き、参拝しました。なかなか味わえない貴重な経験を、日本全国から集まった助産師、ドゥーラの方たちと共有できた時間は、何にもかえがたいものとなりました。

バリ島の火山を模したビュッフェ!?

最後に楽しんだ手作りランチ。バリ島のアグン火山を模したスペシャルビュッフェプレート。スパイシーなテンペや新鮮な野菜がおいしかったです。

第2回目の研修は、2019年9月6日(金)~9月9日(月)に開催予定です。助産師やドゥーラなど出産、育児の仕事に関わる方、経験者、興味がある方はぜひ参加してみてはいかがでしょうか。

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★産後ドゥーラ 小松紀子さんの記事は金曜日配信(不定期)です★

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産後ドゥーラは、妊産婦さんや赤ちゃんのお世話をする産後ケアの専門家。産前から産後1年半まで利用できる訪問型のサポートです。ドゥーラごはんなどの母乳に優しい料理から、家事、育児相談、沐浴などの赤ちゃんのお世話、病院やお出かけの付き添いまで、ママの気持ちに寄り添い、赤ちゃんとゆったり過ごせるお手伝いをします。(産後ドゥーラ 小松紀子)
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Profile
小松紀子
産後ドゥーラ
一般社団法人ドゥーラ協会認定産後ドゥーラ、松が丘助産院登録ドゥーラ。現在、東京都中野区、杉並区、港区、品川区、世田谷区の登録ドゥーラ。ベビーシッターや家庭教師、塾の講師を経験し、18年の出版社勤務を経て、ドイツに5年半駐在し、帰国。一児の母。体に優しい料理、整理収納、ハンドケア、傾聴が得意。英語、ドイツ語(少し)可。趣味は旅行、ベリーダンス、美術館巡り。

一般社団法人ドゥーラ協会 小松紀子一般社団法人ドゥーラ協会 公式サイト

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