授乳中のインフルエンザ対策は?予防接種やタミフルはOK?【小児科医監修】


鳥海佳代子先生
とりうみこどもクリニック副院長
この記事は、授乳中のインフルエンザ対策について解説しています。インフルエンザはやる季節になると、授乳中のママは予防接種を受けたほうがいいのか、もしかかったらインフルエンザの治療薬を使用してもいいのか、気になりますね。ママと赤ちゃんの健康のために、授乳中のインフルエンザの予防法や治療法について知っておきましょう。
目次
インフルエンザとは
インフルエンザとは、インフルエンザウイルスに感染することによって起こる病気です。感染すると、突然の高熱(38度以上)、頭痛、関節痛、筋肉痛、全身の倦怠感などが現れるのが特徴で、普通のかぜと同じように、のどの痛みやせき、鼻水などの症状も見られます。
また、急に高熱が出て、一度下がってから再び上がることもあります。
インフルエンザの感染力は非常に強く、流行するとあっという間に広がり、たくさんの人が感染してしまいます。とくに抵抗力が弱い赤ちゃんや高齢者、妊婦さんは、かかると重症化したり合併症を起こしたりするおそれがあります。授乳中のママも、育児による睡眠不足や疲労、出産による体力の低下などによって、ふだんより感染しやすい状態であるといえます。
感染時期
とくに空気が乾燥している冬は、ウイルスが飛びやすくなるため流行します。日本では、インフルエンザは例年12月~4月ごろに流行し、1月末~3月上旬に流行のピークを迎えます。
感染源
インフルエンザの感染源には、飛沫(ひまつ)感染と接触感染の2つがあります。
・飛沫感染
感染した人のせきやくしゃみで飛び散った唾液や鼻水の細かい水滴を吸い込んでしまい、ウイルスが体内へ入ることを「飛沫感染」といいます。授乳中のママと赤ちゃんは近い距離で接するため、ママが感染すると、赤ちゃんは高い確率でせきやくしゃみからウイルスを浴びることになります。
・接触感染
感染した人がせきをする口元を手で押さえたり、鼻水が手についたりしたあとドアノブやスイッチなどに触れると、その触れた場所にウイルスが付着することがあります。同じ場所を別の人が手で触れ、さらにその手で口や鼻に触れると、粘膜などを通じてウイルスが体内に入ります。これを「接触感染」といいます。家族の中のひとりがかかると、ほかの家族もかかりやすくなります。さらに乳幼児が幼稚園や保育園で使うおもちゃなどから、感染してしまうケースもあります。
合併症
大人の場合、インフルエンザの合併症では、もっとも多く死亡率が高いのは肺炎です。一方、乳幼児の場合、かかるとこわいのがインフルエンザ脳症です。これは、インフルエンザ感染に伴う急性の意識障害を起こす病気で、神経にダメージを与えるため、重い後遺症を残すケースが多く、命に関わることがあります。
そのほかの合併症には、急性筋炎、急性胃腸炎、中耳炎、副鼻腔炎などがあげられます。
次のような症状がみられたときは重症化のサインです。すぐに医療機関を受診してください。
・大人の場合
呼吸困難、または息切れがある
胸の痛みが続いている
嘔吐や下痢が続いている
症状が長引いて悪化してきた
・乳幼児の場合
けいれんする、呼びかけにこたえない
呼吸が速い、苦しそう、胸の音がゼーゼーしている
顔色が悪い(青白)
嘔吐や下痢が続いている
症状が長引いて悪化してきた
おしっこの量や回数が明らかに減っている
インフルエンザの予防方法は?
インフルエンザを予防するには、飛沫感染、接触感染といった感染経路を断つことが大事です。また、ウイルスが活動しにくい環境をつくるとともに、ふだんから体調を整えて抵抗力を高めるようにしましょう。
手洗い
予防には、家の中にウイルスを持ち込まないことが大切。外から帰ったら念入りに手洗いをしましょう。
石けんをよく泡立てて、手のひらや手の甲だけでなく、指と指の間、指先、できれば手首からひじのあたりまで、しっかりと洗ってください。子供はつめと指先の間が汚れていることもあるので、できればブラシなどを使ってママやパパがていねいに洗ってあげましょう。
外出するときは、アルコール除菌のできるウェットティッシュなどを携帯するといいですね。
うがい、のどの潤い
のどや鼻の粘膜にある繊毛(せんもう)は、外から入ってきたウイルスや細菌などの異物を外へ送り出す働きがあります。気温が低くなり、空気が乾燥すると、繊毛の運動が弱くなったり止まったりして異物が侵入しやすくなります。うがいでのどを潤し、繊毛の働きを高めましょう。
ただし、インフルエンザウイルスは、粘膜に付着してから数分~20分という短い時間で体内に入り込んで増殖するため、うがいで予防をするためには、20分おきにうがいをしなければならなくなります。インフルエンザ対策としてはあまり現実的ではありませんが、かぜには有効なので手洗いとセットで励行しましょう。
栄養、睡眠
体の抵抗力が高ければ、ウイルスが侵入してきても発症しにくくなったり、症状を軽くしたりすることができます。そのためには、十分な休養と睡眠、バランスのとれた栄養摂取を日ごろから心がけましょう。
部屋の湿度
ウイルスは乾燥した環境で増殖します。加湿器を使ったり洗濯物を干したりして、室内の湿度を50~60%に保つと理想的です。加湿器は、カビや汚れがないかどうかを確認してから使用しましょう。また、室内のウイルスを追い出す効果もあるので、1日数回は換気を。
床拭き掃除
ウイルスなどの病原菌を部屋中に広がらせないために、床拭き掃除も効果があります。とくにトイレや洗面、リビングなど、家族が共有する場所は、しっかりと床拭き掃除をしましょう。テーブルやドアノブなどの人の手にふれる部分は、アルコール除菌をしておくと効果があります。
マスク
飛び散ったウイルスは口や鼻の粘膜から入ってくるため、マスクを着用していると、感染リスクを下げることができます。
予防接種
予防接種を受けたからといって、100%インフルエンザに感染しないわけではありませんが、受けたほうが、しなかった場合よりも病気が軽くすみ、重症化防止に有効であると報告されています。インフルエンザの予防接種を受ける場合は、流行前の12月中旬までに受けることが望ましいでしょう。授乳中のママが予防接種を受けることは全く問題ありません。
授乳中のインフルエンザワクチンの影響
インフルエンザのワクチンは不活化ワクチンです。不活化ワクチンは、病原体の毒性をなくし、免疫をつけるのに必要な成分だけを取り出したものです。母乳に影響が出たり、母乳からウイルスが伝わって、赤ちゃんに感染したりすることはありません。むしろ、予防接種によってママにできた免疫が、わずかですが母乳を通して赤ちゃんに移行するという報告もあります。
授乳中のインフルエンザ治療薬の影響
授乳中のママの多くは、薬を使用することをためらいがちです。でも、ママがインフルエンザにかかるとつらいし、赤ちゃんへ感染する可能性も出てきます。医師と相談して治療薬について検討しましょう。
インフルエンザの治療薬には、体内でのウイルスの増殖を抑えてくれるタミフル、リレンザ、イナビルなどがあります。これらの薬は、ごくわずかですが母乳中に移行することから、薬の添付文書(注意書き)には、「授乳中の場合には、授乳を控えたほうがよい」という記載があります。
しかし、副作用に関する明らかな影響がないことなどから、米国疾病センター(CDC)では、授乳中のインフルエンザ治療薬の使用をすすめています。これを受けて、日本産婦人科学会でも、医師による説明と患者の同意は必要としたうえで、授乳中でもインフルエンザ治療薬の使用をすすめています。発症後48時間以内であれば薬の効果が期待できます。
タミフル
インフルエンザウイルスの増殖を抑える効果が高い内服薬。母乳中へ移行する量は、非常に少ないと報告されています。
リレンザ、イナビル
専用の吸引機を使って、粉状の薬を吸い込むタイプの薬。インフルエンザの増殖部位である気道に作用します。ママの血液中にはほとんど検出されないので、授乳中も問題ないとされています。ただし、気管支喘息や肺疾患の既往歴のある人が服用すると、気道が過剰に刺激されて既往症を悪化させてしまう副作用があります。
インフルエンザにかかったときの授乳は?
ママが感染しても、インフルエンザウイルスが母乳中に出ることはないので、授乳をやめる必要はありません。授乳の前にしっかり手洗いをして、マスクをつけ、乳首を消毒してからあげましょう。
ただし、高熱などの症状が続いている状態で直接授乳をすることは、ママにとって負担になります。つらいときは搾乳をして、感染していない家族に与えてもらってもよいでしょう。赤ちゃんへの授乳をお休みしてしまうと、乳腺が詰まったり、乳房が張って「乳腺炎」などのトラブルにつながったりすることがあります。これらのトラブルを防ぐためにも、直接授乳をしないときは、数時間ごとに搾乳するといいですね。
授乳中にインフルエンザにかかったときの注意点
インフルエンザと診断されたら、安静にして休みましょう。赤ちゃんのお世話は、パパや家族などにお願いし、食事や身の回りのこと以外は、なるべく寝ているようにしてください。ママの部屋を別に用意し、家族がママと接するときはマスクをつけ、こまめに手を洗いましょう。
脇の下や足の付け根には太い動脈が通っているので、その部分を保冷剤で冷やすと解熱効果が期待できます。
熱があると、多くの水分が体の外に出てしまうので、脱水症状にならないよう、こまめに水分補給をすることも大切です。
食事は、食べられるときに食べられるものを口にするようにしましょう。口当たりのよいゼリーやアイスクリーム、うどんやおかゆなど消化がよく食べやすいものならなんでもかまいません。無理をする必要はありませんが、体力を落とさないためにも出来る範囲で食事をとるようにしましょう。
また、熱が下がったあとも数日はほかの人に移す可能性があります。できれば2、3日は外出を控え、せきなどの症状が続いている場合にはマスクをするなど、まわりの人に移さないよう配慮をしましょう。
授乳中にインフルエンザにかかったときの病院に行く目安
インフルエンザは感染力が強いので、感染に気づかずに外出したりすると、感染を広げることになります。急に38度以上の発熱があり、せきやのどの痛み、全身の倦怠感を伴う場合は、インフルエンザに感染している可能性があるので受診しましょう。発症後48時間以内であれば、抗インフルエンザ薬の効果が期待できます。
授乳中にインフルエンザにかかったときの診療科
医療機関は、近くにある内科を受診しましょう。普段からかかりつけ医を見つけておくことも大切です。受診の際は、授乳中であることを医師に伝え、感染防止のためにマスクを着用しましょう。
授乳中にインフルエンザを予防する方法
授乳中のママがインフルエンザにかかると、ママ自身の体もつらいし、赤ちゃんのお世話も大変です。流行する時期は手洗い、マスクの着用、適度な湿度などの予防を徹底しましょう。このような対策を行っていても家庭内のだれかに移ってしまうことがあるので、家族全員がインフルエンザ対策に取り組むことが必要です。
さらに、インフルエンザに負けない健康な体づくりをすることも大切。栄養バランスのよい食事をとり、ママが育児で疲れたときは、パパやほかの家族の手をかりて体を休め、日ごろから健康的な生活を心がけましょう。
取材・文/小沢明子

鳥海佳代子先生
とりうみこどもクリニック副院長
とりうみこどもクリニック
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