結局、妊婦加算ってどうなったの?これからどうなるの!?【厚生労働省に聞きました】

 専門家監修
公開日:2019/03/22
更新日:2019/07/09
結局、妊婦加算ってどうなったの?これからどうなるの!?【厚生労働省に聞きました】
監修
厚生労働省 保険局医療課

妊娠している人が医療機関で健診以外の診察を受けると、初診で約230円、再診で約110円が加算される「妊婦加算」(3割負担の場合)。
2018年4月1日に始まったものの、数ヶ月すると「これって何?」とSNSからニュースになり、2019年1月1日に凍結されました。いったい妊婦加算とはどんな制度で、何が問題だったのでしょうか? 今後の妊婦加算の行方は? 厚生労働省の担当者に聞いてみました。

妊婦加算ってどんな制度?

たとえば、妊婦さんが風邪をひいてしまったとします。外来診療を受ける際、医療従事者はおなかの中の赤ちゃんに注意して薬を選ぶなど「お母さんにも赤ちゃんにも配慮した診療」をしなければなりません。こうした特別の配慮が求められる妊婦さんの診療を、医療機関に対して適切に評価する…という観点から設けられたのが「妊婦加算」です。

そもそも妊婦加算を理解するためには「診療報酬」について知っておく必要があります。診療報酬とは、診療や薬にかかる費用を決めたもので、2年に一度、見直しが行われています。外来の受診や入院の際に支払う医療費は診療報酬によって定められており、医療機関の主な収入源になっています。

救急領域や小児科領域、周産期(しゅうさんき:妊娠22週~生後7日未満までの期間のこと)領域などは非常に重要な分野ですが、診療報酬という仕組みを使ってこれらの領域を重点的に評価する(つまり、診療報酬の値段を高くする)ことで、こうした分野に積極的な医療機関の応援を行ってきました。周産期領域を例にとると、通常よりも配慮を必要とするハイリスクの妊婦さんの診療に対して、診療報酬で“評価”を行うことで、医療機関側がさらに体制を充実させ、妊婦さんたちがより一層安心して医療機関を受診できるようになることを目指してきました。

ただ、どのような妊婦さんであっても診察するときには特別な配慮が必要です。このため、医師の専門性によっては、妊婦さんの診療に対して積極的になれない場合がある、という課題が指摘されていました。

たとえば、ある妊婦さんが風邪やインフルエンザで内科を受診したとき、内科医から「ふだん診てもらっている産婦人科で診てもらったほうがいいのではないか」と言われたそうです。
妊婦さんからしたら、せっかく内科に行ったのに「産婦人科に行ってください」と言われると、複数の医療機関を受診しなければならず、体調不良のときにさらに体に負担がかかってしまいますよね。

だからといって、あらゆる体の気がかりについて最初から産婦人科で受診することへの課題も指摘されていました。まず、妊婦健診や分娩を行う産婦人科の医師が、妊婦さんの内科的疾患も診ることになると、ますます忙しさに拍車をかけてしまいます。これは結果として、妊婦さんの不利益にもつながってしまうのです。たとえば、今まで以上に妊婦健診の待ち時間が長くなったり、診察の際にも産婦人科医とゆっくり相談する時間がとれなくなったり…。産婦人科医の手が足りず、緊急対応に遅れが生じてしまう事態もあるかもしれません。どれも、妊婦さんにとっては避けたい状況ですよね。

また、産婦人科では妊婦健診を毎日行っているので、そこへインフルエンザなどの感染症が疑われる妊婦さんが来院すると、他の妊婦さんの不安や感染拡大につながってしまう…というリスクも考えられます。

こうした背景から、日本産婦人科医会、日本産科婦人科学会から、妊婦さんを産婦人科だけでなく、他の診療科も含めてより多くの医療機関で診てもらえる体制が必要なのではないかという声があがったのです。そうすれば妊婦さんにとっても負担が減るし、産婦人科医も、より必要なところに集中して妊婦さんの診療にあたれるのではないかと考えたからです。

妊婦さんの外来診療(これは産婦人科だけでなく、その他の診療科についても)を診療報酬というかたちで今まで以上に“評価”することで、妊婦さんがより安心して医療機関を受診できることを目指して、妊婦加算が生まれたというわけです。地域の医療機関での診療を「妊婦加算」で評価することが、結果的に妊婦さんにとっても多くのメリットがあることにつながるのではないかというのがスタートした経緯となっています。

ネットで浮き出た妊婦側のデメリット

2018年春に新設されたこの制度ですが、秋ごろからSNSなどでデメリットが指摘されるようになりました。妊娠中は支出が多く、何よりも体調的に変化が大きいときに、経済的負担が増えるということで、驚いた妊婦さんがいらっしゃったのではないかと思います。

妊婦さんをより丁寧に診ている医療者側は、「妊婦さんをより安心して診られるようになる」ということで、妊婦加算をポジティブに捉えていましたが、妊婦さんにとっては「今まで受けてきた診療と内容は同じなのに、なぜ医療費はプラスになるの?」というギャップがあったのだと思います。
そのように妊婦さんが感じたのであれば、妊婦さんの診療には特別な配慮が必要で、医療者がより丁寧に診察を行っている…ということが十分に伝わっていなかったことが原因の一つであっただろうと思います。こうしたことをきっかけに、SNSなどでさまざまな投稿があり、それらがニュースで取り上げられるようになりました。

極端なケースでは、医師が妊婦さんと確認しないまま診療を行い、会計時に「妊婦さんなら、お会計が高くなりますよ」と言われた、という投稿もありました。こうした例は、妊婦加算の趣旨と合わない、不適切な運用であったと考えざるを得ません。

こういったことをきっかけに国会でも、国が子育てをサポートしているなかで、妊婦さんの負担が増えることは問題なのではないかという議論が出てきました。もちろん妊婦さんを診る医療機関を評価することは重要ですが、一方で、妊婦さん自身の負担という観点でも考えていく必要があるのではないか、というのが大きな論点でした。

診療報酬は2年に一度の見直しですから、妊婦加算が導入された2018年4月から次の改定の2020年4月まで、この制度を続けていくのは難しいのではないか、という指摘もありました。妊婦さんに妊婦加算の意義を十分に理解していただけていないなかで、これ以上今のかたちで妊婦加算を続けるのは適切ではないだろうと考え、2019年1月1日から妊婦加算をいったん中断することにしました。中断のあいだ、妊婦さんに必要な診療や健康管理についてよく検討し、そのうえで妊婦加算をどうするか議論していこうと考えています。

妊婦加算がなくなったら、丁寧に診てもらえなくなる?

妊婦さんのなかには、しっかり診てもらっているなら、いくらかプラスで払うのは理解できる、むしろ妊婦加算がなくなることで、丁寧に診てもらえなくなるのではないか、と心配される方もいらっしゃるようです。でも、妊婦加算がなくなったからといって、妊婦さんが丁寧に診てもらえなくなるわけでは決してありません。これまで通り、丁寧に診てもらえることには何ら変わりありません。ただ、妊婦さんがより安心して医療機関を受診したり、より健康なマタニティライフを送るために、どのようなサポートが重要なのかは、改めて考えていく必要があるのではないでしょうか。

妊婦さんへのサポートについては、現状でもさまざまな取り組みが行われていて、たとえば妊婦健診や産婦健診がその代表例です。

妊婦健診については14回を基準に、検査や受診などの健診費用が補助されています。妊婦健診に比べるとまだ規模は小さいですが、最近では産婦健診の助成も始まっています。特に体調変化が大きく、精神的に落ち込むことも多くなる産後2週間と1カ月の2回にわたって、健診費用の補助を行っているものです。また、新生児の健診や予防接種などの支援もあります。お住いの自治体でどのように支援が行われているか、ぜひ確認してみてください。

また、妊娠から出産、育児までいろいろなイベントがあり、これらについて、いつどこでどんなサポートが受けられるのかわかりづらい場合もあるかと思います。このため、今、全国の市区町村で広がっている「子育て世代包括支援センター」では、妊娠中から産後まで必要な情報をまとめて、「こんなことで困っています」とか「このサポートはどこで受けられるの?」といった、妊娠や子育てなどのさまざまな疑問や悩みに対応し、必要なサポートを行っています。このセンターを2020年度末までに全国の市区町村に設置できるよう、取り組みが進んできています。

今後、妊婦加算がどうなるかについては、さまざまな観点をしっかり踏まえて考えていかなければいけないと思います。妊婦さんが安心して受診できる医療が提供されること、同時に、妊婦さんの診療を頑張っている医療機関を応援すること、その両方ともに最適な答えを見つけることが大事だと思っています。

今、妊婦側からできることはある?

まずできることは、妊婦さん自身から妊娠していることや飲んでいる薬を、医師に伝えていただくことです。母子健康手帳には非常に大切な情報が入っていますので、これを見せていただくのもよいと思います。

特に薬に関しては、妊娠の週数によっても必要な配慮が変わってくるので、「今、妊娠〇週目です」という情報は重要です。  
問診票に妊娠している旨を記入した場合であっても、医師に直接、心配なことを聞いたり、説明してもらったり、といった積極的なコミュニケーションが重要です。妊婦さんのほうからも、どんどん質問してほしいですね。

取材協力/厚生労働省

取材・文/池田純子、Milly編集部

監修
厚生労働省 保険局医療課

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